[セッションレポート]スマートなクラウド活用を目指す行政組織における CCoE の構築の方法について#AWSSummit

[セッションレポート]スマートなクラウド活用を目指す行政組織における CCoE の構築の方法について#AWSSummit

行政という組織でクラウド利用を推進する際には、行政組織特有の背景(多くの関係者・予算の承認など)を考慮する必要があります。そのため、組織内にCCoEを設置し、行政官や関係各所への適切な情報伝達・コミュニケーションを行なっていくことが非常に重要です。
Clock Icon2024.06.25

はじめに

おのやんです。

この度、幕張メッセにて開催されたAWS Summit 2024に参加し、AWSセッションを聴講してきました。今回はそのなかでも、行政がクラウド活用を推進する際の方法やコツを学べるAWSセッションについて、内容をまとめていきたいと思います。

セッション内容

スマートなクラウド活用を目指す行政組織における CCoE の構築の方法について

「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」等により、多くの行政機関が単にクラウドに移行するだけではなく、クラウドの利用メリットを十分に得られる、いわゆるクラウドスマートな考え方が必要になっています。クラウド移行効果を創出するためには、モダン化など技術的な検討や技術的知見を集約するだけでなく、調達制度、事務手続き、組織のルールなどを変更するなどの組織変革を伴います。そのため、その技術的変革・組織変革をリードする CCoE(Cloud Center of Excellence) となる組織作りが求められています。行政機関様での取り組みを踏まえて、どのようにモダンなクラウド移行に向けた 組織作りや変革を進めるべきなのかを解説します。

本セッションのおおまかな構成

本セッションの主題は、「行政機関がクラウド利用を推進するためのCCoE設立と組織作り」です。そのため、今回は技術的な話には入り込まず、行政でクラウド化を進める際の調整だったり、プロジェクトの進め方に重点をおきます。

この前提の上で、今セッションではおおまかに以下のような構成でお話しいただきました。

  • 行政に対してクラウド化を進めると、どういった変化が起きるか
  • 上記の変化に関して、どのような課題が発生するか
  • この課題を踏まえて、どのような組織作りを目指すか

クラウド化が行政にもらたす変化

2024年現在で、民間企業のクラウドサービス利用率は拡大していっています。この動きは行政も同様です。近年では、行政におけるクラウド利用について「ただ利用」するのではなく「賢く適切に利用する」このに重点が置かれています。

「賢く適切に利用する」具体的な内容として、本セッションでは「サーバーレス」・「マネージドサービス」・「IaCの活用」が言及されていました。本セッションでは、このことを「モダン技術」と表現します。

行政のクラウド利用にモダン技術を導入する場合、サーバーレス技術やIaCを導入することで、制度や政策の追加変更に迅速に対応できたり、ランニングコストを抑えることが可能になります。

特に行政システムでは、全体のコストの7割がランニングコストであるとの見積もりもあります。モダン技術導入を行いコスト削減を行うことは、行政システムにとって大きなメリットとなります。

一方で、行政システムの場合は既存構成の維持を求められる場合も多く、先述のモダン技術導入は、行政にとってチャレンジングな取り組みとなる傾向があるようです。

行政のクラウド利用に伴う課題

クラウドのモダン化に伴い、大きくヒト(体制)・モノ(技術)・カネ(コスト)の3つの観点で課題が生まれます。行政システムにクラウドのモダン技術を導入する際、これまでのシステムで当てはめられてきた「常識」と、モダン化後との間に大きなギャップが生まれます。

特に行政では多くの関係者がシステムに携わるとのことで、予算承認・変化への対応についてネガティブな反応を示されることも多いのだそう。ここは行政独自の背景として紹介されていて、特に興味深かったです。

クラウド利用のモダン化に伴う課題を解決する組織づくり

これらの課題を解決するべく、本セッションではクラウド推進組織(Cloud CoE:CCoE)の整備が重要であると主張されていました。

CCoEの活動は組織や行政において大きく異なります。ここでは、AWSが多くの行政を支援してきた上で、「現状把握」「組織のゴール設定」「組織のToBe作成」「推進計画」の4ステップを提唱していました。

現状把握

クラウド利用・クラウドのモダン化において、まず把握するのはブロッカーの存在です。ヒト(体制)・モノ(技術)・カネ(コスト)の3つの観点で、クラウド利用を阻むブロッカーが存在すると認識します。

その上で、モダン化の適合度や難易度府省・自治体システムの現状をヒアリングして評価します。その後、難易度とモダン化の適合度をシステムごとに評価していきます。こちらが、先ほどで言ったブロッカーの洗い出しにつながります。

ブロッカーを洗い出すことで、CCoEが持つべき機能の検討に用いることができます。また別システムや別プロジェクトと比較することで、立ち位置を明確にし、行動を促すことが容易になるとのことです。

組織のゴール設定

次にCCoEが実現したい未来として、そのゴール・ミッションを整理します。この観点は複数あり、ターゲット(CCoEが誰に対して活動していくのか)、何のために(CCoEの活動目的)、CCoEはどのような価値を提供するか(CCoEの提供価値)、CCoEは何に注力するか(注力ポイント・テーマ)の4つに対して、それぞれ必要な情報をインプットする必要があります。

また本セッションでは、CCoEが持つ機能を、以下のコンポーネントに分割して考えています。

  • クラウドリーダーシップチーム(CLT)
    • クラウド戦略や投資方針を確立
  • クラウドビジネスオフィス(CBO)
    • クラウド移行を順調に進められるように、教育や組織面での整備を実施
  • クラウドプラットフォームエンジニアリング(CPE)
    • アーキテクチャ、運用、セキュリティなどのエンジニアリング担当

これらのそれぞれの機能は、行政組織内のさまざまなステークホルダーに対して作用します。CLTは、幹部層を中心にクラウド化がもたらすビジネス的なインパクトについて説明しますし、CBOは行政官を中心に予算制度や調達に関して働きかけます。CPEは行政組織のシステム開発者に対して、技術的な観点からサポートします。

また行政組織ではどうしても関係者が多くなりがちであるため、持っている情報の差異を解消したり、行政官の関心分野(制度や組織設計など)にフォーカスして、協力が得やすい体制を整えることが重要だと触れられていました。

さきほど述べたブロッカーの考えをここに当てはめると、予算の承認が得られなかったり、クラウドのモダン化に精通した技術者の確保が難しかったりと、さまざまな課題が出てきます。ここを、CCoE組織の各機能が解決していく流れになるとのことです。

組織のToBe策定

組織のゴールを明確にできましたら、その次に役割・責任分界の整理を行なっていきます。

今回のセッションでは、行政内の組織機能とCCoE機能にどのような対応関係があるのかを整理していきます。また初期の段階では行政組織内で情報の非対称が見られるため、こちらを解消するべく、外部の知見を行政組織内部に持っていけることを意識するとのことです。

ここから、段階的に行政組織内でクラウド利用・モダン化を推進していきます。初期の段階では組織内の各プロジェクトにCCoEがメンバーとして参画し、密に支援を行なっていきます。ここから徐々にCCoE関与の度合いを減らしていき、最終的に各プロジェクトで育成された専門家が独自でそれぞれのプロジェクトで動けるようになり、各組織がクラウド利用を進められる状態を目指していきます。

ここで注意なのが 、行政組織は年単位で人事異動が行われるため、行政組織には知見が溜まりにくく、受託会社などの業者側に知見が蓄積されることが多いです、そのため、最終的に行政側に知見を移管できるよう責任分界を整理して、業者側に任せる部分と行政側で知見を蓄積する機能の部分を検討することが求められます。

また、時間経過でCCoEとプロジェクトの関係性は変化するため、役割も変化していく前提で組織設計を行うことが重要とのことです。

推進計画

これらの準備の後、モダンなクラウドへ移行していきます。この際、行政ならではの課題に向き合う必要があります。

行政は、一般的に単年度ベースの予算制度で、コスト面が非常にシビアです。そのため、モダンなシステム構想の中に費用対効果を盛り込むことが必要になっていきます。またクラウドネイティブなアーキテクチャそのものに対する不安も見受けられると思います。これには、実現性の確認やリスク低減策を確認していき、実現性が担保できそうな場合には必要なアクションをもとに移行計画を作成することが重要です。

クラウド移行に際しては、やはり小さく始めることが重要であるとのことです。複数のシステムがある場合には、システムを個別に分けた上で、小さく支援を始めることが重要です。

徳の行政組織では、こうして小さく動かすクラウド移行を重ねていって、小さな成功を増やすことにより、組織としての変革の根拠を積み上げていくことが重要なのだと話されていました。

またシステムによっては、戦略的にロードマップを策定して、着実に成功体験を積んで不安を払拭することが勧められています。

まとめ

行政という組織でクラウド利用を推進する際には、やはり行政組織特有の背景(多くの関係者・予算の承認など)を考慮する必要があります。そのため、クラウド技術はもちろんのこと、行政官や関係各所への適切な情報伝達・コミュニケーションが非常に重要になってくるのだと感じました。

長年行政を支援してきたAWSによるCCoEの知見が詰まった、非常に興味深いセッションでした。AWS Summit 2024のブログは他にも上がっておりますので、ぜひご覧になってください。では!

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